部屋
タブ

子どもの呼び方講座

名も知らぬ子供を呼び止めるにはどうするか?
これはなかなかの難問である。
いざというときに困らないために、この講座を開講した。

(1) 名も知らぬ男の子の場合

 おばちゃんに多いのが「坊や」「ボク」という呼び方だ。道に迷ったっぽい子供に対しては、「坊や、どうしたの?」「ねぇ、ボク。どうしたの?道に迷ったの?」など呼びかければよいのだ。個人的な話になるが、私は子供の頃、「ボク」と呼ばれるのは大変いやであった。どうも、見下されているような感じがしたのだ。「ボク」という言葉の響きの裏には、「よしよし、いい子だからおばちゃんのいうこと聞くんだよ〜。ほらほら、泣かないの。お菓子あげるからさ」という相手の気持ちが隠れているような気がしてならなかったのである。

 さて、「ボク」以外の呼び方ではどのような物があるだろう。同系統のものに「坊ちゃん」というのがある。しかし、今時「ぼっちゃん」ってのも変な話である。お前は、夏目漱石の時代に生きとったんかい!って突っ込みたくなってしまう。

 では、どうするか。いろいろ考えてみたのだが、見あたらないのである。ならば、大人と同じ呼び方にはなるが、「キミ」というのはどうであろう。先ほどと同じく、道に迷った子供には「ねぇ、キミ。どうかしたの?道に迷ったん?」ってな風に呼びかければよいのだ。しかし、「キミ」という言葉には、自分と子供が対等なイメージがつきまとう。小学生にもならないような子供と自分が対等ってのは、しゃくに障るぞ・・・と思う人には、「オマエ」という言葉を薦める。確かに、この言葉も大人に対して使用するが、対等というイメージはないであろう。こうすれば、自分の方が上であることをあらかじめ示すことができるので、優位に会話を始めることができるってなもんだ。

 もしも、あなたのガラが悪いなら、もっとぴったりな言葉がある。「ガキ」「坊主」「チビ」などがそれである。さらに、汚くしたければ、「ガキ」は「クソガキ」、「坊主」は「クソ坊主」、「チビ」は「おチビちゃん」などと活用さしてやればよい。ここら辺の言葉を使用すれば、子供に対して、絶対的な優位性を誇示することができる。ナイフを持ったような小中学生に逆ギレされたら恐いやん・・・と思うかたは、ほどほどで止めておく方がよいかもしれない。

(2) 名も知らぬ女の子の場合

 お手柔らかなレベルなのが「お嬢ちゃん」だ。女の子の場合なら、これで決まりだろう。「お嬢ちゃん」は強力である。どんな女の子でも、「お嬢ちゃん」と呼べるではないか。さらに、どんな女の子でも、この呼ばれ方にイヤな気はしないのではないだろうか。相互満足。すばらしいではないか。ただし、あなたが男性で、しかも怪しい雰囲気を醸し出しているなら要注意である。決して、薄ら笑いを浮かべながら「お嬢ちゃん」と呼ばないでほしい。「あの人、怪しくない?」「誘拐じゃない!?」などと思われてしまうからだ。そのため、「俺は該当するかも・・・」と思った方は、この語を使用するときには必ず、顔を引き締めておいてほしい。

 ガラが悪い派のあなたには、先ほどと同じ「ガキ」「チビ」などをオススメする。しかし、女の子には女の子なりの武器がある。「泣く」ことだ。女の子に泣かれでもしたら大変である。周りに子供がいたなら「なーかしたぁ、なーかした。せぇんせーにいったーろー」攻撃を受けることは必至であろう。親がいたなら駆けつけて来て、非難ごうごうだろうし、周りに見知らぬ人がいても、ばつが悪いものである。ようは、泣かれない程度にね・・・ってことである。

(3) 男の子か女の子か分からない場合

 意外とよくあるのがこのケース。ちっちゃい子の性別は、分かりにくいものである。 母親と話しをしているが、子供の性別が分からない、という場面を想定してみよう。このときに「男の子ですか?」と尋ねるか、「女の子ですか?」と尋ねるかどちらが良いであろう。以下では、「男の子ですか?」と尋ねて女の子であった場合と、「女の子ですか?」と尋ねて男の子であった場合について考察してみる。

 「男の子ですか?」と尋ねて女の子であったなら、どういうフォローの方法があるだろう。「ワンパクなので、つい男の子かと思ってしまいましたわ」というのが無難なところだろう。だが、親の立場からすると、このフォローは嬉しいだろうか。答えはNOだ。女の子の親ならば誰しも、我が子に女の子らしくなって欲しいと望むのではないだろうか。女の子が女らしくなるためには、小さいころからの教育が大事である、と思っている親も多いだろう。そんな中で、我が子が男の子に間違えられたなら、親は──たとえ、外向きにはそのように振る舞っていなくても── ショックを受けるものだ。

 「女の子ですか?」と尋ねたが男の子であったなら、「かわいので、つい女の子と思ってしまいました」という言い訳に限る。もちろん、男の子の親なら、我が子が元気にワンパクに育って欲しいと思っているのだが、この年代の男の子は実際にかわいく、男らしくなってくるのはずっと先のことである。そのため、親もさほどショックを受けないだろう。また、「でも、よく見ると元気なところが、やっぱり男の子ですね」などというフォローを入れれば完璧である。

 以上の考察から、我々は男の子か女の子か迷ったなら「女の子ですか?」と聞くことを薦める。ただし、これは親を立てることを重視したときの結論である。子供にとって、性別を間違えられることは気分のいいものではないことをしっかり自覚しておいてほしい。


日本語とは、たいそう不思議なものである。子供一人呼ぶにしても、色々な言い方があるものですな。

© 1998-2003 nitoyon.